その手にはいつも緑色の折り紙で折られた
紙ヒコーキが握られていた。
楽しい事をしようとしてがんばっているのに
それは本当は自分にとってつらい事なんて
そんな矛盾している事はない。
絵を描くのが好きなのに先生にこれを描きなさいと
言われて限定的な想像力を使っていない絵なんて
絵とはいわない。
僕は他の人が決めた青い線路に乗って赤い絵の具を
撒き散らしながら走るのが好きなのだ。
その日、目が覚めると空はもう真っ赤な夕焼けで
ケチャップ色に輝いていた。僕の左手には緑色の
紙ヒコーキが握られていた。今は、しわがいっぱい寄って
空を飛べないヒコーキになっている。そのヒコーキを
ベッドの横にあるテーブルにそっと置きベッドから
立ち上がりふらふらと1m先にあるドアの方へと
ゆっくりと歩いていった。その歩みはまるで80歳の
老人が100kgの箪笥を持って歩いているような
客観的に見ても危なっかしいような感じだった。
やっとの思い出ドアまでたどり着きのぶを回して
押し開けるとそこからはまったく重力が違う星に
来たみたいに足取りも軽く、スキップでもしているような
足取りだった。
私は、キッチンに行って夜間で湯を沸かし、コーヒーを
1杯作ってそれを飲みながら玄関のドアを開けて
外の郵便ポストを見に行った。封筒が1通と夕刊が
入っていると思ったが入っていなかった。
そういえば、先月で夕刊がなくなったんだっけ。
新聞社もこの不況のあおりを受けてやむなくほとんどの
新聞社が夕刊を取りやめた。朝刊以降の記事は翌日まで
持ち越しになるか新聞社のサイトでアップされる事に
なったのだ。私は夕刊ではほとんど新聞小説しか
読んでいなかったのでちょっと寂しかった。
サイトの方には主にその日あったニュースしか
アップされなかった。何ヵ月後かに出る小説を
待つしか続編を読む機会を失った。
チョコレートを一切れ冷蔵庫から取り出し、コーヒーを
飲みながらチョコの甘さとコーヒーのほどよい
苦さで口がうまい具合にクリアになった。
居間のソファーに腰掛けてポストから取ってきた
封書を左手の薬指でざっと開いた。
そこには2枚の手紙が入っていて仕事の依頼だった。
私は最近1ヶ月働いて1ヶ月遊ぶような生活を
している。1ヶ月みっちり働いて3カ月分の給料を
稼ぐ。もっと稼ぐときもあるがあんまり無理はしないように
している。それで1か月分は丸まる貯金する。
毎日仕事するというのは私にはあまり向いていないのだ。
それに毎日働かなくても十分やっていけるだけの給料を
稼ぐ事はできる。でもそれには自分で仕事を探すのではなくて
仕事が向こう側からやってくる状態にしないといけない。
ある程度何かしらの能力が必要とされる。
私は、その能力を小さいときから持っていた。
お金を稼ぐのにそれほど多くの才能や能力は要らない。
子供のときは何でもできるようにといろいろな事を学ぶが
よーく見てみると大人は子供ほど1日に5教科もいろんな
ことを学んだりしないし、仕事のほとんどは1日1つだ。
私の仕事のほとんどはコーヒーを飲みながらゆっくり考える
ことだ。それは本当にゆっくりした姿勢でないと行う事
ができない。走ったり、筋トレしながらやるとほとんどの
ことが失敗する。ゆっくり歩いて、ゆっくりコーヒーを
飲んで考えるんだ。酸素を頭の方にやるんではなくて
心の方に循環させる。そうしてやっと仕事をする事
ができる。お腹の上で手を組んで目を閉じて仕事を
開始した。部屋の中の空気を肌で感じ本棚の本を整理して
遠くからの見栄えをよくするみたいに手紙に書いてあった
情報を整理し、それにあった結果を編み出していく。
目を開けるともう空が暗くなってきていたので今日の
仕事はしまいにして、コートを着込んで近くにある
イタリアンレストランにいって赤ワインとカルボナーラ
を注文して店の内装をぐるっと見回しながら、
他の客のおしゃべりを聞きながらカルボナーラを
すすり、ワインをちびちびとあけていった。
夜風に吹かれながらほろ酔い気分で家路につきお風呂に
入って歯を磨いてベッドで深い違う世界へと飛び込んで
いった。